ご相談の際、抗がん剤治療をやっています、
というお話はききますが、
では、どんな名前の薬ですか?
とお聞きすると、
「難しくて覚えていません、カタカナとかローマ字で、なんとかって言ってたな~」
という回答が多いです。
抗がん剤には大きく分けて4種類ありますが、種類によって、語尾に特徴があります。
一つ目は増殖する細胞を標的にする薬=殺細胞剤の語尾の特徴は、
〇〇リン、〇〇ピン、〇〇チンの他、
〇〇ト、〇〇タ(ダ)、〇〇テール等
で終わっているものが多いです。
語感としては「言い切った」感じでしょうか。
2つ目の分子標的薬は〇〇マブというものがほとんどです。
「ひつまぶし(ウナギの蒲焼を混ぜたごはん)みたいな名前ですね~」という方もいます。
3つ目の免疫チェックポイント阻害薬も〇〇マブの仲間ですね。
4つ目は、ホルモン療法剤ですが、こちらは語尾の特徴といえるものはないですね。
〇〇チン、〇〇ダの「言い切り系」薬は、殺細胞剤と怖い名前がついています。
がん細胞の分裂行程を破壊することが狙いです。
がん細胞が増えるためには、遺伝子をコピーして新たな二つの細胞に分配する作業が必要です。
これらの薬は、コピー中の間隙を狙い、コピー原本を破棄しまう薬、コピーをソートするところで止めてしまう薬などがあります。
分裂が盛んであるがん細胞は最も影響を受けるために「抗がん剤」と名付けられています。
がん細胞並みに分裂が盛んな正常細胞も巻き添えを食らってしまうのが難点です。
髪の毛が抜けたり、口内炎、腸炎等の副作用は、この薬が正常細胞の分裂も邪魔してしまうためです。
〇〇マブの「ひつまぶし系」薬は、増えるスイッチの作動をピンポイントでブロックします。
その一つは抗原に抗体が付着する免疫反応を利用した抗体製剤と言って、がん細胞表面に現れている特徴的なたんぱく質=増殖スイッチを標的にします。
たんぱく質が抗原で、この抗原に付着する抗体を開発したものです。
抗体が細胞膜にある増殖スイッチに付着することで、スイッチがブロックされ行程がとまる、新しい補給血管を作れなくなる、という作用です。
がん細胞表面の抗原が「どんどん増えろ~!」「早く補給のための血管を作れ~!」というスイッチになっていて、このスイッチをONさせない、邪魔をすることで、増殖をおさえるという狙いです。
殺細胞剤のような「殺し」戦術ではない分、副作用も緩和されます。
増殖をおさえながら、あとは免疫力での退治や兵糧攻めという狙いです。
抗がん剤は、始めてしまうと、止めどきが難しくなる
抗がん剤は、その効果からは「がんへの嫌がらせ」の域を超えられないという実態です。
そもそも正常細胞の不良品という出自ですから、劣悪な環境に耐え抜いてきたツワモノです。
タバコ、辛いもの、ウイルス、血流不足による低体温、酸素不足など過酷な環境に適応してきました。
今度は、抗がん剤です。
初めての攻撃には、さすがに撤退したりはしますが、そのうちに持ち前の不屈さを発揮します。
抗がん剤が効かなくなるのです。
撤退している証拠が、画像で腫瘍の大きさが小さくなったり、腫瘍マーカーの数値が下がったりということになります。
しかし、画像が消える、正常域にもどる、ということはなかなかありません。
医師もいつやめてよいのかわからなくなる
世界の戦争の歴史を考えてみましょう。
戦争は敵国を倒すことが目的です。
敵国が消滅してくれれば完勝ですが、消滅はありません。
普通の住民も土地も同じ地球に住む仲間であり、恨みや実害があっても平和が戻ればいいのです。
あるところで和平交渉に入り双方攻撃を止めます。
そして新たなバランスの構築に全力を尽くすのです。
戦場と化した土地、地球を豊かな平和に土地に復興するのです。
がんとの闘いを戦争に重ねてみましょう。
抗がん剤の攻撃が優勢なときから、次第に均衡状態になったとき、ここまでやったのだからもう一息、と考えたくなります。
しかし、これまで以上の有効な攻撃手段がなかったら、意地でも前に進むか、攻撃以外の方法を考えるか、カラダという戦場をどこまで巻き込むのか、考える場面です。
医師のプライドとしては、とことんやりたくなる
医師は武器を持った部隊長です。
まだ、使っていない武器がある、新兵器ができるかもしれない、と敵に立ち向かっています。
ところが患者さん本人は、自身を戦場として敵と戦う当事者です。
当事者にとっては、母屋に敵が住み着いてるけど母屋まで壊されちゃたまらない。
柱に少々傷がつくくらいならいいけど、柱が壊れたり火が付いたり水浸しにされるのは勘弁です。
消防車がきて消火活動の一環として、延焼を防ぐために周囲の家の窓や戸を壊して水浸しにする光景をほうふつとさせます。
そこには使命に従う部隊長の論理で正義、大義名分のもと、敵を倒せ、火を消せ、と命令を受けた以上、中途半端なことはやらない、途中では放棄できないのです。
しかし、母屋の主のあなたが、打ち止め、もういい!という別の判断もあるのです。
抗がん剤は、大まかに4種類あります。
作用もそれぞれ違います。
抗がん剤という名前「がん細胞だけを狙う」イメージですが、大きな誤解です。
「がん細胞だけを狙えて正常細胞には作用しない」ことができれば、どんな猛毒でもOK です。
実際は、そのような薬は世界中どこにもありません。
殺細胞剤は、増える勢いがあるときはどの細胞にも作用します。分子標的薬もどの細胞のスイッチも止めてしまい新陳代謝が滞ります。ホルモン剤はカラダ中、あらゆる性的な変化を起こします。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫バランスが崩れます。
がんはこれらの薬を使わないと絶対に治せないのでしょうか?ここが考えどころです。
薬はがんが嫌がることをしているだけです。
ホントところは、免疫細胞が処理をしたり、がん細胞自身に組み込まれている自滅プログラムなどが働いているのです。
「がんが嫌がる、うまく増えられない」状態にしたこと、それをもって病院では治療といいます。
では、完治とは?
普通の生活をしていても「がん細胞がいても大きくならない、増えない」ことです。
当然、そのときは、もう薬など飲んでいません。
がん細胞は、37兆個の細胞が日々、新陳代謝を繰り返す中で不良品として必ず出てくるものです。
ゼロにはなりません。
それなのに「完治」の状態はあります。
すなわち、もともとカラダにはがん細胞を抑え込む力があるわけです。
この代表選手が免疫細胞であり、免疫力と呼ばれるものです。
したがって完治をめざすとは、がんの勢いが弱まり、十分に本来の免疫力でバランスが取れる状態にするということです。
抗がん剤はひとえに「がんの勢いを抑え込むためもの」という理解が大切です。
ここまで抑え込めば、もうあとは自分の免疫力でなんとかなるな、ということが目指すところです。
よくある相談をご紹介します。
「こんにちは。
中村先生、病院の治療と癌についてお尋ねしたいのです。
39歳、女性で2年前に大腸癌になり手術、現在転移が左の肺に 2ヶ所あり放射線治療を 5回予定のうち2回を実施、副作用で脱毛。
受診病院は○○大学病院です。
2ndオピニオンは、現時点では探していません。
私は、ご主人の友人なのですが、手術でとりきれなかったようです。
2年後、転移して放射線治療になるということは、生と死の狭間にいるといっても過言でないと思います。
この先、完治できるのでしょうか。
診療情報が無いのに とんでもない質問で 申し訳ありませんが 癌の世界の現実をしらない ので一言いただけますか。」
結論から申し上げると 多くのがんサバイバーのお話をふまえると完治 はありえます。
この厳しい状況を乗り越える道は、人様々なのですがいくつかポイントがあります。
ご自身が抱えている問題が内在しますので、がん細胞だけを叩く戦略に加えて、生きている元気な細胞をもっと元気にする生活習慣、環境づくりを戦略に加えることは不可欠のように思います。
あえて補足させていただくと、病院のスタッフのアタマは延命です。
統計的な数値と比べて、1ヶ月でも延命出来れば、ちゃんと仕事をしたことになります。
完治をイメージして、今どうしたら良いか?
こういうチャレンジをしてみたらどうか?
等と言うアタマはありません。
そのような中に囲まれれば誰でも知らず知らずのうちに、その気にさせられてしまいます。
その道を作られてしまうからです。
それしかないと思ってしまうのです。
気をつけて欲しいのは、本人がすでにがんは病院でなおすもの、そこでダメなら主治医の話を受け入れるしかない、などと覚悟されているかもしれないので、私の意見を受け入れない、聞く耳を持たないこともあります。
または本人が聞きたくても、家族が余計なことを言うなと怒りだすこともあります。
そのような場合、本人が信頼できる人、話を聞いても良い人を通じて「そういう話もあるけど~」みたいな話から、少しずつ固いアタマを緩めて行くしかないかと思います。
ここが一番の高い壁になります。
一つの入り口になりますが、私が関わっている温熱療法のサービス(説明動画:https://youtu.be/Dvytg56jzII)です。
令和2年4月から始まったばかりです。
私もこちらで、がんという病気にどう対処したら良いかがん治療設計をノート使っての説明をしています。
ご参考になれば幸いです。
診察室に入るまではドキドキですね。
この前は「がんの疑い」といわれたけど、ゴーゴーうるさいMRIもしたし、細胞診や諸々の精密検査をしたから「疑っていたけど、がんじゃなかった!」と言ってくれる、そうあってほしいと期待します。
奇跡が起こってほしい、とは誰もが思うこと。
「○○番の方、どうぞ、2番診察室にお入りください。」と、いよいよ主治医とお話をする段になりますが、主治医は愛想よく、先日の検査結果が出ましたから説明しますね。
と、画像や病理検査の結果を淡々と解説してくれます。
奇跡「がんじゃなかったです、よかったですね」が実際に起こればよいのですが、・・・。
起こらなかった場合、超ショックです。
やはりダメか、がんだったんだ、人生終わるかもしれない、仕事どうしようか・・・・と、もう主治医の話は耳に入らなくなります。
主治医は、画像をみながら腫瘍の大きさや転移が疑われるものがあるかどうか、血液検査での腫瘍マーカー値がどうなっているか、他の疾患の可能性はどうしてないのか、など一通り説明してくれます。
その後、手術や放射線、さらには抗がん剤を使うか使わないかなどの治療方針を提案してくれます。
おそらく5分くらいで大変重要な情報を話してくれているのですが、何しろアタマで整理している余裕などないので、何かご質問とかありますか?と聞かれても、何を聞いたらよいのか「そうだ治るのか?」を聞いておこう、と。
ところが、手術をすれば50%、さらに抗がん剤を使うと70%になると統計データを示されます。
しかし、数字を聞いても判断のしようがないです。
手術の日程は、来週また担当医から説明しますので診察の予約を入れますが、この日は大丈夫ですか、という流れになるでしょう。
次の対処を考える間もなく、何を希望すればよいのか主治医に伝えることもなく、これで終わって診察室を出てしまうと、次の診察日までただ不安な日々を過ごすことになります。
診察室に入るときは、がんだった場合も想定して奇跡は期待しないようにしましょう。
ショックは受けても、主治医の話は聞きのがさないようにメモを取ると決めて部屋にはいるか、誰かに付き添ってもらいメモを取ってもらいましょう。
できれば、セカンドオピニオンを聞きたいので、今日の説明資料をもらえないか、お願いしてみましょう。
診療情報提供書として資料をまとめてくれるはずです。
この際、どの病院宛に書きますか、と聞かれますが、「時間がもったいないので、これから同時並行で探します。
特定病院の宛名なしでもお願いできないでしょうか」と再度お願いしましょう。
それでも「宛名なしではダメ」とか渋られたら、「血液検査や画像所見のコピーをもらえませんか?」とお願いしましょう。
コピーだけならばいいかなと、難なく渡してくれると思います。
このような交渉は、主治医が嫌な顔するのではないか、これからの信頼関係にヒビが入るのではとか心配されるかもしれませんが、無用な心配です。
とにかくこのデータを持つことで診察室を出た後が、全然、違う世界になるのです。
このデータなしに診察室(または病院)を出てしまうと、できることは「心配」することが中心になります。
家族や友人に「どうだったの?」と聞かれて「やっぱり、がんだった」としか言えません。
ご本人はもちろんですが、周りの方も次のサポートをどうしてよいのか、判断の材料がなく途方に暮れるだけです。
このデータがあることでご家族や第3者にも、病状を正確に伝えることができ、今後の対処について意見を聞く(セカンドオピニオン)ことができます、その時は、自分でも少しは余裕をもって一緒に考えることができるでしょう。
がんの種類、進行度、部位、大きさなど情報があれば、より具体的な提案も専門家や身近ながん体験者から色々と出てくるものです。
そのような情報を知ってはじめて、こうしてほしい、これは嫌だ、という自分で考えて納得できる治療を受け入れることになるでしょう。
「えっ、何も情報をもらわないで病院を出てしまった、手元に何もない!」場合でも、あわてる必要はありません。
今からできること、判断を間違わないにように、次の診察の際に、主治医に「診療情報が欲しい、説明の内容は難しい聞き慣れない単語ばかりなのでメモがほしい」とお願いしましょう。
自分でデータを管理することは、がん治療では特に大切です。
先進医療で治療したい。
生命保険の特約にも入っている。
どうしたらよいか教えてほしい?と聞かれます。
先進医療と先端医療と似ていますが、前者は医療制度の話です。
後者は標準治療(健康保険での治療)に未だ採用されていない治療全体の話で、先進医療を含みます。
患者さんは、最先端の治療技術であれば進行してしまい完治が難しいがんであっても何とか救ってもらえるのではないか?
と期待をもって尋ねて来れられます。
そこで先進医療特約の値段を今一度お尋ねすると、毎月100円程度・・・。
上限2000万円までとか記載があるので、粒子線治療や免疫療法、遺伝子治療などメディアから聞こえてくる治療を、保険に入っているから費用は気にせず安心して受けられると思っていた、とのことです。
毎月100円の保険料でこれらの治療を保障していると保険会社は潰れてしまいます。
いったいどうなっているのでしょうか?
先進医療特約という生命保険は、厚労省の先進医療制度に該当したものが適用になる、という分かりにくいハードルがあるのです。
公的な健康保険制度では、標準治療以外の自由診療を同じ保険医療機関で同時に行うことを禁止しています。
この制度の下では、健康保険で認められていない治療をした場合には、患者さんは全部自費として請求されてしまうのです。
医療保険の公平性を守るための措置ですが、新技術の導入が遅れてしまう硬直性にもなっています。
そこで、折衷案として厚労省に、将来ちゃんと臨床データ提出し効果があったかなかったかを整理し、効果があれば健康保険に加えてほしい、と申請・承認されたものは、健康保険の診療と一緒にやっても自費の分だけ別にしても良い、という制度なのです。
臨床データをとるためには、患者さんを選ばなくてはいけません。
がんの種類、ステージ、これまでの治療歴など条件をそろえて当てはまる者だけが対象となります。
この制約があるために「狭き門」なのです。
保険会社も100円の保険料で済むわけです。
この状況をなんとか門を広くできないか?自由診療も選択できる保険はないか、という要望が強くなっています。
少しずつがん保険の商品も改良されてきていますので注目しています。
抗がん剤は拒否したいのですが、どうすればよいですか?と、よく聞かれます。
その理由は、
抗がん剤で苦しんだ方の話を聞いたり、
髪の毛が抜けた方を見たから、
さらには、延命であって治す薬ではないと主治医から説明されたから、
など様々です。
抗がん剤の投与は「患者さんの同意」が必要なので、同意書にサインをしないまま投与が始まることはありません。
この質問の答えは「同意書にサインをしない」ということになります。
世の中には医者が好きな人、嫌いな人という二派があって、抗がん剤を拒否する方々の「抗がん剤は百害あって一利なし」との決めつけが正しいか?と言われると一言申し上げたくなります。
抗がん剤は、その名前があたかも「がん細胞」だけをターゲットにする印象を与えています。
が、実際はがん細胞の特徴である「増殖」を狙い撃ちするものです。
正常な細胞も増殖します。
著しく速く増殖する細胞には「効く」わけです。
髪の毛、口や腸の粘膜なども増殖著しいので効いてしまい脱毛や潰瘍ができてしまいますが、がん細胞の勢いがあるときには利用する価値は否定できません。
がん治療は、
外科で切除してしまえばおしまい、
放射線でバシッと照射しすれば大丈夫、
残党をおいつめる抗がん剤をすれば完了、
というものではありません。
当初の治療がうまくいっても3か月後、半年後に検査に来てください、と言われるように長期戦になります。
主治医から提案された抗がん剤、すなわち化学療法が「今の局面」で、メリットがあるかデメリットが大きいか、感情的に拒否する前に、せっかくだから整理をしてみてはどうか、と提案させてもらっています。
がん治療は、がん細胞の動き方を見ながら、その局面、局面で、治療法を戦略的に考えていく、固定的な戦略に執着しないことが大切です。